夕立ちの後で
夕立ちの後で世界がまた新しく始まるんだってさ
どうやって観に行こうか
急がなくちゃ まだ
彼岸花がこちら側で揺れているそのうちに
群青色した地平線がぼんやりと舞台を囲むそのうちに
胸騒ぎは後にまわすのさ
作り笑いも今は必要ない
日々の小さな幸せを説きたいなら僕のところじゃないって
君はとっくに知ってるはず
それでも手を伸ばすなら 約束の河を渡るなら
最後の踏切を越えるなら
その先には沙漠か、それとも原始の森か
目をつぶって行こうか
ささやかな夕立ちが一人ふたりの時間を狂わせてしまう
その新しい世界を僕は信じてみたいと思う
2004/08/07(Sat) 12:38:19

続く
ときどき影がやたらに重く
踵に貼り付くみたいにして僕を黄昏の誰もいない通りに引き止めようとするんだ
角を曲がるその矢先 信号が青に変わるその刹那
お前はいったいどこへ行くのかと
さっきパンを食べたら喉がかわいいたろと
お飲みよ、僕の赤い血は光と闇を混ぜ合わせ
すべての空の夕焼けよりもとろけるように甘いからと
そういって手のひらを錆びて曲がった釘に打ち付けるんだ
自分が影に過ぎないことを忘れたかのように
まるでこの坂道があの丘へ続くかのように
ねえ、そのたびに想い出すのは
蘇ったはずのひとりの若者の末期さ
誰ひとり救わず、何も説かず、
戻ってきたそれだけのことが語られ続ける一節限定の狂った主人公のことさ
目覚めたまま眠るのはどんなにか辛かっただろうと呟いてみたが
その物語はあまりに平凡すぎるのか、想像したところで笑えも泣けもできそうになかった
そこで僕と影は縁石に腰掛けてまた工場産の安物のパンを割いて分かち
来るべきさよならについて
その三日のちに得る勝利について
そして勝利そのものが新しい惑いの中へ置き去りにしてしまうことになった愛すべき憎むべき弱さについて話してみるのだった
やがて夜が来るまで、そして影は短く笑う
2004/07/31(Sat) 01:25:27

朝2
ひとつ、もどかしいのは
そんなに速く夜を越えられはしない、ということ
正しい姿勢のまま
明日に向かって容易く進めもしない、ということ
なぜなら―
夜明けの門はいつも歪み、うねり、片側は砕け
くぐり抜けるに僕らは必死で体を捩り歯を食いしばり
這いつくばって前へ なんとか前へ
そんなふうにして行かなくちゃならないから
ともあれ、もどかしさに停まらないでどうか
奇妙な呻き、火傷、崩れ落ちる朝焼けにも恐れないで
決して辿り着かない約束の地を目指そう
さよなら真夏の夜の夢、黄色いカクテルミュージック
いまはもう知ってしまった、この世界に
産まれるってことの醜さ、痛み、そして限りない喜び
2004/07/21(Wed) 04:57:21

同じこの場所で
この世界は今も風と水と光にあふれ
子供たちがしあわせな戯言をうたい
夏、緑は目を潰すほどに濃く
音楽が鳴り響き
ほら、僕らは疑うこともできるし
信じることもできる
同じこの場所で
朝焼けと夕暮れのどちらを見ても
世界は傷つくほどに―
傷つくほどに美しかったと知るだけだとしても
2004/07/11(Sun) 12:49:33

夏の挨拶
風を焼き切って大地まで注ぐ
胸を干上がらせ歓喜を蒸し殺し
ただこの酷いひと日
この酷い一日をやり過ごすよう夏は僕らを幻惑してしまうんだ
忘れちゃいけないのは
こんな灼熱の中で産まれる詩もある
希望はつねに生活の子供たち
どんなに揺らぐ陽炎もそれを隔てることはできない
ごらん
沙漠でさえも井戸を隠していたのなら
この街にはもう数えきれないほどのオアシス
どんな大げさなコンテストの
どんな豪華な賞金も購うことのできない
誰かの手のひらに落とすひとしずくの夢
僕は首を賭けて
ますます強く照りつける真夏の太陽に
切り落とされたって構わない
こんな灼熱の中で産まれる詩
それだけを僕は汲み 尽きせぬ痛みと意味の中で汲み
コップ一杯のサイダーのように君に飲ませたいだけ
コップ一杯のサイダーのように
甘く 涼しく 飲み込んだ喉がはぜる詩を ほら
君の胸に注ぎ 古い古いテーブルに注ぎ
プロメテウスの立った大地にまで注ぎたい
ただそれだけ
ただそれだけなのさ
2004/07/07(Wed) 00:03:45

大丈夫、僕は狂っちゃいないよ
せめて今日
昨日までと同じように
明日すべて洗い流す激しい雨の降るまでは
造りかけの箱船を見上げては来るべき世界の話をしたいだけさ
2004/07/04(Sun) 07:02:03

鈍色の朝の光 カーテン越しに眺める
日曜日 狂った湿った風が世界を捉える
眠れずに越えた夜を捜す硝子の探偵が
寂しげに笑う姿いつかの映画のラストシーンにも似て

優しくなければ生きていけないと君ならば言うだろうか
優しくなければ生きていけないと君ならば言うだろうか
2004/06/28(Mon) 03:03:42

dusk
もっと聴こえてくればいい
もっと見えてくればいい
耳や目で辿り着ける世界よりも遠く
僕らのすぐ傍らで待っていたまま燃え尽きる夕暮れの肌触り
まったく分かり合えなかった昨日も
やっぱり恋しくなるのは
それがもう僕らの中で消化され溶化され
境界線をも曖昧にして残り続けていると知っているから
どうか教えておくれ、もし君が栄光っていうものに触れたことがあるなら
あの淡い光をなんと名付けよう?
街中の喧騒と薄闇を突き抜け
道ゆく人々を、僕を突き抜けて
思い出したくない醜い天井裏の二十日鼠の季節へと
送り還すあの淡い光、
それをいったい何と名付けよう?
勝利よりも逃避、賞賛よりも悲惨に彩られるいま、ここ
その中で頑なに笑い続けた片頬のまま話す僕
君はそんな僕を軽蔑するかもしれないが
君はそんな僕を苦々しく思うかもしれないが
君はそんな僕を歌う資格なしとするかもしれないが
ただ
あの光が音楽ならばそれで許して欲しい
そしてもっと聴いておくれ、もっと見ておくれ
そこには全ての世界を解き放つ鍵があるように僕は思う
2004/06/23(Wed) 00:58:46

羊の日
それである前に僕は人だったし
それである前に僕は歩いているし
それである前に僕は僕は僕は僕はと言いたくもない
大したことは云えない
それ以上のものを信じて
それ以下のものを信じて
それ以外の全てを信じて
その真っ只中で齷齪と呼吸して安穏と迷子遊びしている
今日みたいな曇り空では方角も判らないかもね
部屋に残って草でも食んでいたほうが善いかもね
かくて可もなく不可もない羊の日
それでもやっぱり僕は歩いて出かける

こんな日はせめて沈丁花に息を詰らせて死にたいものだと
2004/06/18(Fri) 09:47:22

八月の光
空よりも高い深いところへ潜り
怒りや憎しみを沈めてしまいたい
幾重にも重なった雲
その尽きる場所で風に吹かれてる宇宙の塵
僕らもまた拡散し錯乱し
沢山の約束を交わし 縛られ
破っても破っても捨てられやしないまま
飲み込んでも飲み干しても渇きは癒せない
それは甘い苦い拙い安物の缶コーヒーのようで
夜に迷ってしまったときには
分かってはいても自販機の灯りに引き寄せられてしまう
狂おしい雑踏が途絶えない空梅雨の夜の夢 カフェインよりも簡単な魔法で人は凭れあい騙しあい殴り合うことができるんだ
生暖かい風のせい この星が裏手で玩ぶ狂った微熱のせい 終わらない希望の歌に誰も彼もが震えているのさ
それでも、今朝は見た
痛みのように晴れた空に 憔悴の水晶に映っていた預言
僕らの弱さを愛するよりは強くあれ
嘘を苛むよりは自らを偽るなかれ
こころの闇をもっとまっすぐに見つめ
こころの闇をもっともっとゆっくり渡れ
今はただ想う
魚のように
鯨のように
僕らを飲み込んでしまう混沌を許し
そこから産まれ出で
自殺の後のような軽やかな風を待っている
八月の光のようにすべてを傷つけ
八月の光のようにすべてを愛する
八月の光のように 僕はなりたい
2004/06/11(Fri) 04:56:56

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