野村俊彦 空想体操

2001年7月

 この間、テレビでシロナガスクジラの姿を見た。そこで僕はこの存在を甘く見ていたことに気付いた。全長30m。尾びれは幅が7mもある。世界最大の生き物。なんてことだ。こりゃ恐竜じゃねえか。30mもの巨体が自らの力で泳いでいるなんて、最高にかっちブー。この感動分かります?いや、分かります。
 本当に甘く見ていた。シロナガスクジラ様バンザイ。
 全く関係のない書き出しだが、今回の空想体操はこれ。電車も最高にかっちブーですもの。

〜もし 自分が小さな駅の駅長だったら〜

 電車好きで駅員になったのだが、実際のところ趣味のままでとどめとけりゃ良かったと、今になって思う。毎日同じホームで同じ電車なんて、さすがに飽きた。自分が電車好きでなかったら他のものに興味が持て、もっと仕事が楽しいかも、とまで思っていた。

 しかし、ある日を境に考えが変わった。

 そう、映画『ぽっぽや』を見てから…
 激感動。アンドもろ影響。次の日から、ていねいに駅を清掃。アイ ラブ マイ ステーション。気分はもちろん「高倉健」。

 ジャッキー・チェンの映画を見た直後、むしょうに闘いたくなったり、ビーバップハイスクールを見た直後にやたらと攻撃するヤンキーを気取った奴のように『ぽっぽや』にどっぷりつかった。『ぽっぽや』を見たことのある住民たちは、
「あいつぜったい憧れてるよ。最近変にしぶいぞ」
と気付いている。気付かないはずがない。それぐらい分かりやすい行動。しかし本人は別に気にしない。だって気分は「高倉健」。

 高倉健風駅員になってから何日か過ぎ、自分に自信を持ってきた今日この頃。最近どうも気になることがある。というか気になる人がいる。毎朝7:00頃電車に乗る女性。おそらくOL。これは恋?いや、恋そのもの。

 今日も彼女が改札口を通る。「初恋はいつですか」という質問に対し、「今です」とおもいっきりの良いウソを恥ずかしげもなくつける自信あり。今まで好きになった人全否定。

 そんなほのぼのとしたハニーデイズが何日か過ぎ、ついに決心した。「明日声をかけてみよう」。俺ならいける。だって俺は「高倉健」なんだもん。

 そして翌日、いつもの時間に彼女登場。よし、まずは当り障りのない言葉から……

 いよいよ彼女が前を通る。
「今日もお仕事ですか?たいへんですね」
 ああ、なんて「自然」。なんて「高倉健」。彼女の返事を大期待。
 すると彼女、「は?」と一言。ていうか一文字。その後、言葉はなし。まるで北斗の拳のワンシーン。「俺」イコール「哀愁」。
 気が付くと彼女はもう電車の中。

 あっ
 俺「高倉健」じゃねえや。
「たかくらけん」、「のむらとしひこ」。全然違う。「ら」しか合ってねえ。しかも「高倉健」は駅員じゃなくて役者じゃねえか。そりゃ渋いはずだよ。何やってももてるんだもん。

 そういえばこの文章、「駅員になったら」というよりも「駅員恋物語」になってる。やばい。というわけで今回の空想はここでおしまい。

ベース 野村